第1章 国家の創生
第1章 国家の創生
アメリカ幻想の歴史
ポール・サイモン「アメリカのうた」とウォルト・ホイットマン「Song of Myself」
アメリカ的な3つのイコン「自由の女神像」「メイフラワー号」「アポロ11号」
全てに「船」が関与
アメリカの起源をめぐる物語(象徴的な意味での「建国神話」)
新世界, ヨーロッパを乗り越える未来, デモクラシー, アメリカンドリーム, 自然, 開拓地などのさまざまなイメージ
ギャツビーのアメリカ
オランダ水夫たちが眼前にしたアメリカ「人間のあらゆる夢のうち、最後の、そして至高の夢」
みずみずしい、新世界の緑色の胸としてのアメリカの過去
独立革命ー革命の大義とその影
被治者の同意に基づくことが政府権力の根拠となるという「同意による統治」という一般原理
フランス革命にも繋がる革命的理念(君主主義の否定, 共和主義)を国際社会に表明した
独立の影
独立のために戦った黒人たち
しかし, 「生命, 自由および幸福の追求」をうたった独立宣言文からは採択前に奴隷制を批判する文書が削除された
女性たちの活躍
スパイや従軍などで活躍した女性も多かったが, 従来の性役割が変化することがなかった
独立革命の進行に伴い, 民衆の政治意識は高まり, アメリカ人のアイデンティティを形成する決定的契機でもあった
「発見」の物語ー植民地言説の系譜
新世界の発見
ツヴェタン・トドロフによると, これは近代の始まりでありヨーロッパの誕生である
世界の版図の拡大を認識すると同時に, ヨーロッパが世界の中の1地域, 1部に過ぎないという相対的自己意識を産出
ヨーロッパのローカリティが明確になった
かならずしも「発見」ではないが, 歴史的かつ象徴的なコンテクストを生成し続けているという点での大きな意味
「発見」という概念
ヨーロッパによって見られる対象=Objectとして置かれ続けた
非ヨーロッパ的なもの, 異質なるものの厳選としてのアメリカ
『航海史』における「差異と類似」「何があり、何がないか」といった認識の方略
リチャード・ホワイトの批判「北アメリカにおける自然の発見」
既知により未知を考量する
対象それ自体は不可視化される
ピーター・ヒュームの指摘『征服の修辞学』
ヨーロッパと原住民の対話は, ヨーロッパ人の独話の息を出なかった
「他者」発見の場としてのアメリカ
「発見の物語」の系譜
「発見という身振り」と同時に「何かを隠蔽する策略」
旅行記を経て, 19世紀アメリカのロマン主義文学にまで継承されていると想定する研究者も ヤンキーとサザナー
フロンティアの拡大
アメリカの西漸運動
北と南, 二つの異なる特徴を備えて西に進んだ人々
元来, 北と南二つの顔を併せ持った国
北部と南部
アメリカ入植から200年ほど立った頃にフロンティアが交差
これまでに, 北と南それぞれの人々の気質あるいは自己イメージはある程度固定化
北部
旧世界からの精神的独立
都市とそれを支える農業地・工業地の発展, それらを結ぶ交通網の整備
近代社会樹立
縦型社会
南部
旧世界を第一の市場とする農業社会
自他ともに許し合う関係, のどかで享楽的な人生観
横のつながりを重視
エチケットやマナーの発展
イメージの衰退と復活
「金メッキ時代」の経済発展
北部人のイメージは正しいアメリカ人像として一旦は定着
19世紀末の挫折
自由主義的経済観念が, 社会格差を根底に持つことが露呈
南部の古い生活のあり方が自然と密着した生活, 人々の間のあたたかな繋がりと言った点で好ましい対象として復活
富の追及か生活の安定か, 人種融和か摩擦回避か, 他人種国家・資本主義国家アメリカが抱えるジレンマをヤンキー・サザナーのイメージが象徴
ギャングとシンジケート
機会の国アメリカの理想と現実, 牢獄としての都市・社会, 家族の崩壊, 法の不在, ジェンダーや共産主義など時代に応じて変化する社会の関心ごとをギャング映画は表現する
シンジケート
移民が流入する都市のスラムの環境
禁酒法時代にはギャング組織が大きく発達, 全国的組織が形成 禁酒法が廃止された後は, 階層的な組織化が進み, 裏社会を支配するシンジケートが現れる
アメリカにおける組織犯罪
都市の移民や少数民族集団が社会での地位を獲得する手段の一つ
合法的活動に移行することも多かった
移民・少数民族同化の社会プロセスの一部だという見方
近年では多国籍化・国際化
経済基盤や安全保障基盤を脅かすことが危惧される
ストリート・ギャング
若年層の犯罪集団
スラム化した貧困地区の劣悪な環境, 教育や労働の機会の欠如から構成される
貧困地域では多くの住民が合法と非合法の間で働かざるを得ない現実
暴力ーアメリカ史の裏側
アメリカの起源や歴史を語る国民的物語の裏面としての暴力
独立宣言で訴えられた, 人間の平等と自由のための革命の権利 領土拡張の運動
「自由と自治」を拡大するという文脈
フロンティアの理想と現実
独立自営, 相互扶助などのアメリカ民主主義の礎となる精神を養った
しかし, これらの理想は暴力によって築かれている
奴隷制
先住民の追放や殺害
農民・労働者・都市市民の政治参加が著しい進展
インディアン・ファイターとして先住民の排除, 黒人奴隷制度の再編・強化も行われた 国家と国民意識
本来アメリカ人側の「約束破り」であったはずのメキシコ戦争を英雄的物語として描くこと
ケネス・フット
暴力がアメリカ人の忍耐や犠牲を恐れぬ勇気を象徴する出来事として物語化
植民者, 開拓者, 「生命、自由および幸福の追及」の権利を求める人間たちの個人主義的な利益追求の欲求が帰属意識と忠誠を醸成する母体となった
暴力がアメリカの国家, 国民意識を築く重要な手段
大統領暗殺の系譜
ミュージカル『暗殺者たち』
自由の権利を手に入れることのできない人間が「アメリカの夢」の体現者でもある大統領に銃を向ける
アメリカの夢の反転した悪夢としての暗殺
暴力と国家創世との両犠牲
テロとの戦いー内なる戦い
オクラホマ連邦ビル爆破事件や, ブランチ・ダビディアンへのFBIの突入
国家創世の暴力と自由の追求という理念がテロリズムへと反転した瞬間
セイラムの魔女裁判, 赤狩り, テロとの戦いなど, 危機に際して内なる的による暴力的陰謀を想定せざるを得ない傾向 国家創世の理念と暴力が表裏一体となったアメリカの文化構造を示唆